『インスピレーション』

最近の掲示板を賑わしている『日本語学校』を見ていて、突然、昔の記憶が蘇った。
イタ種と花Tが、一時期、博多天神あたりの英会話学校に通っていたことを思い出したのだ。
大学の授業料もろくすっぽ払っていないのに、何故わざわざ受講料を払って彼らが英会話を習
いに行くのか当初私は不思議に思っていた。
英会話学校ではイタ種がポール、花Tがバーンズという呼び名であったらしい。
その頃、二人が顔を会わすと、

イタ「ヘーイ、バーンズ、ハウアーユー?」
花T「オー、ポール。アイムファイン、センキュー、アンヂュー?」
イタ「アイム元気モリンモリン。バイザウェイ、イングリッシュカンヴァセーション行きまっ
   か〜、トウナイト?」
花T「オー、モチのローン。ハッピー、ハッピー。」

などと鹿児島弁訛りの英語が飛び交い、我々は閉口したものである。
彼らは感心に週一回は必ず、いそいそと英会話学校に出かけていた。

余談であるが、我々の英語力というのはこの程度のものである。
イタ種が新婚旅行でハワイに行った時、ホノルル空港で荷物の分担を奥さんに指示するにあた
って「ユーハブディス。アイハブザット。」と大声で叫んだ話は有名である。

ある夜、居酒屋『海門』でのことであった。
私の隣の席で、イタ種と花Tが周囲に覚られないように、しかも時々にやにやしながら話し込
んでいた。
そういう状況下では私の耳は地獄耳になる。
その内容というのは、英会話学校の生徒にメアリーという呼び名のかわいいOLがいるらしく、
次回の授業時に思いきって二人で合コンに誘おうというものであった。
私は、自分達だけで計画するとは冷たい奴らだと思ったが、まあその結末も楽しみだわいと思
い直して知らぬ振りをしていた。

翌週の『海門』で、彼らはすべてを白状した。
もちろん事がうまく運ばなかったからだ。
メアリーは、私はなかなか気骨のある女性と思ったのだが、そんなことをするために英語を勉
強しに来ているのではないときっぱりと断ったとのことであった。
まもなく彼らが英会話に行くことはなくなり、へんてこな英語も聞かれなくなった。

前土木関係Kは、その日本古来の伝統を踏襲した風貌および性格にもかかわらず、単語カード
という大学生にしては珍しい独自の方法で、国際派を目指して英語を勉強し続けていたらしい。
我々は当初そのことを知らなかったので、彼が外来語を発するとあまりのミスマッチにびっく
りしたものである。
その彼の語学力の片鱗を垣間見た一つのエピソードがあるのでご紹介する。

博多では当時、『ウエスト』というドライブイン風のレストランが流行っていた。
ファミリーレストランの走りであり、低価格の上に24時間営業をしていたので、我々のような
いつ何時でも食欲旺盛な学生は助かった。
ちなみにKOBANASHI4で、花Tが車のトランクの中に入ったのもウエストに行く時であった。

その時は、郊外に『ドン・ウエスト』という新しい店が出来たというので皆で出かけてみよう
ということになったのである。
店に入ってしばらく談笑していたが、このドン・ウエストのドンとはどういう意味かというこ
とが議論になった。

イタ「ドンっていうのは首領のことじゃないのか?。」
花T「それは、少し発想がまとも過ぎるな。首領のウエストなんてのは変だろう。」
てい「うーん、ウエストどんってのを、西洋風に逆さまに言ってるだけじゃないのー。」
皆様「そりゃへんじゃろ!」
てい「じゃあ、リハM、お前はなんだと思うんだ。」
リハ「俺はな、きっと夜明けをイメージしているんだと思う。」
イタ「そりゃお前、ドーンだろ。」
リハ「しかし分からんなあ。ところでKは黙ってるけど、どう思う?」
土K「俺はな・・・、『子供』っていう意味だと思う。」
皆様「こ、こども!」
土K「いやな、おそらくどこかヨーロッパの片隅の言語かもしれん。ひょっとすると南洋の小
   国の言葉かもしれんが、俺の語学に関するインスピレーションではそうだ。」
皆様「語学に関するインスピレーション!?」
土K「そうだ、お前らも結構認めるところではあるだろう。」
皆様「・・・あ、ああ。」

そこまでKに断言されると、そこでその話は終ってしまった。
ひとしきり他愛もない話をした後、店を出ようとしてリハビリMはカウンターに置いてあるパ
ンフレットをおもむろに取り上げ、目を通して笑い出した。
そこには『ドン・ウエストはウエストの子供です。』というコピーが書かれていたのである。
どうやらKはトイレに立った時にでも、既にパンフレットを見ていたのであろう。

先日、彼の母上にお会いした時に彼の現況について教えて頂いたのだが、世界中を忙しく飛び
回っていて、なかなか鹿児島に帰って来れないとのことであった。
私は、彼の地道な努力が結実したのであろうことを喜びつつも、そのインスピレーションのエ
ピソードを思い出してしまい、つい失笑してしまったのである。